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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)1054号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人小室薫の上告趣意第一點について。

所論證人訊問につき原審が被告人自身に期日の通知をした事実は記録上認められない。しかし、右證人は辯護人の申請したものであって、其の辯護人には適法に通知してある。そして、記録によれば原審裁判長は所論證人訊問後の第二回公判において、右證人の訊問調書の内容を被告人に讀み聞け、其の都度、意見並びに辯解の有無を問い且其の供述者の訊問を請求することが出来る旨及び利益の證據が有れば提出出来る旨を告げたのであるが、被告人は意見、辯解並びに利益の證據は無い旨を答え、辯護人からも何等の申出が無かったことがわかる。これによれば右證人の訊問及び證言に付ては、被告人も辯護人も何等異議もなく、其以上の審問をする希望も無かったものと見なければならない。蓋し、若し異議若しくは審問の希望があるならば、裁判長から特に前記の注意があった時辯護人又は被告人から何等かの申出があるのが當然であるに拘らず、被告人は何も求める意見が無い旨を答え、辯護人からも前記被告人に對する不通知に關する點に付き、何等の申出も無かったからである。

本来、公判廷外における訊問に對する供述は、それが其のまま證據になるのではなく、其の調書が書證として證據になるのであり、其の内容は必ず被告人に讀み聞けられ、それに對して不滿があれば、被告人は更に審問することを請求することが出来るのであるから、被告人に對する不通知は、実質上からいえば、そう大した意義のあるものではないといい得るであろう。しかも、本件においては、前記の如く證人の申請人である辯護人には通知してあり、裁判長の事後の叮寧な注意もあって、被告人にも辯護人にも何等異議不服も無かったものと見られるのであるから、かかる場合は、被告人自身に通知が無かったとしても、それ丈けで判決破毀の理由とはならないものと解するを相當とする。其故論旨は採用し難い。(その他の判決理由は省略する。)

よって、刑事訴訟法第四百四十六條に則り、主文の通り判決する。

以上は、裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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